2012年1月8日日曜日

社会物理学の展望

1月7日(土)、統計数理研究所において「社会物理学の展望」という研究会がひらかれ、参加してきました。小田垣先生が主催の研究会で、朝10時から30分の講演が7件と最後に「社会物理学のこれから」についての雑談のようなもの。

石崎龍二(福岡県立大) 「外国為替レートの変動とパターン・エントロピー」 
佐藤彰洋(京大情報) 「ホテル予約サイトデータの統計分析:EMアルゴリズムによる予約傾向分類」
守真太郎(北里大)  「ヒトはいかに情報をコピーするのか?」 
藤江遼(東大)    「コンセンサス問題における多種共存の安定性」
田中美栄子(鳥取大) 「損をする籤を選んでしまう理由:プロスペクト理論の解釈について」 
松下貢(中央大)   「現代社会の豊かさとは-社会物理学の視点より
前野義晴(日本電気(株))「ネットワークゆらぎとパンデミック・リスク」

松下先生は、社会物理の対象のバルク部分が対数正規にしたがうことがベースだという話。楽しめたのは、富の分布が昔と比較して10万ドルを境に対数正規分布から不連続にジャンプし、また一番所得の低い部分の比率が顕著に増加したこと。普通は、高所得の部分で対数正規からべき分布に変化するのですが、最近はべきではなく不連続というの興味深い。(アメリカの経営者や金融関連の人がもらいすぎなのでしょう。)これが最近の格差社会の証拠だとのこと。前野氏のは、パンデミックの時系列データからネットワーク構造を推定する話で、これも楽しめました。パンデミックの場合はSIRモデルでダイナミックスを仮定すれば、感染者の数のデータに合うようにモデルを作れるみたいです。

藤江氏は、言語の競争のアブラ厶・ストロガッツのネイチャーに出た論文のモデルを2言語から3言語に拡張し、相図を求める話。 佐藤さんは、ホテルの前日の予約可能状況から、ホテルの部屋の需要・供給の様子をモデル化する話。ポアッソンでモデル化。石崎先生は、睡眠の深さを脳波のゆらぎのパターンから計算するアルゴリズムを為替市場に応用し、パターンエントロピーの変化と市場の動向に相関があるという内容。田中先生のはプロスペクト理論で、人の選択での非合理性を説明する話のレビューだったのですが、途中で混乱。カーネマンが効用関数、主観確率を仮定して説明したものらしいです。高橋先生に教えてもらったことを思いだしました。

ちなにに、私は論文に書いたことのうち、情報のコピーの部分だけを話しました。回答を知らない場合確率50%で回答するというのは、選択肢にはバイアスがある場合があるから必ずしも正しくはないのでは、という批判。あと、コピーがTanhになる理由に関して、Tanhを仮定しなくても相転移するのか、実験の状況、クイズの内容、アンケートで答えを知っているかどうか確認できないのか、などの質問が出ました。

討論では、社会物理の方向性について議論されました。私の要望は、ミクロな実験事実をもっと積み上げてサイエンスにすること。同じ意見が若い方から出ていたのは心強い。社会現象には再現性がないから説明できればいいとか、悲しい意見もありましたが、そういうことは物理の対象ではない。佐藤さんのいう、データのアーカイブは統数研あたりで作ってほしいものです。

この研究会を最後に、来年度の夏まではなにもなし。しばらくは研究に専念できそうです。

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