2011年6月25日土曜日

WEHIA2011-2



WEHIA2011の二日目。最初の講演はA.Kirmanによる「Economic Theory in Crisis」。アリがふたつの餌場が等距離にある環境でどちらを選ぶのか、という論文が有名。アリ(の集団)は二つの餌場で振動し、それが株や為替の市場において、投資家の態度がファンダメンタリストとチャーティストの間で振動するモデルの基礎となっている。もっとも講演をきいているときは、どこかで聞いた名前だというぐらいで、なかなか思い出せなかったのですが。

内容は、市場は自己実現するけれど、それは安定なのか?1900年にバシュリエが株式市場を正規分布でモデル化したとき、博士論文の審査を行ったポアンカレは、「ガウス性の過程はまずい(flawed)」と批判した。では、効率市場仮説はどこでおかしくなったのか。市場参加者は合理的に予想を行うけれど、その予想を他の投資家が知ると精度が悪くなる。個人の予想の精度は90%、集団は50%にすぎないけれど、人はどうしても空気を読んでしまい、自分の予想を捨てる。また、そのみんなの予想の確信度が上がる。(Tichet2010,Herdy and Menz 2010,Lorenz2011)これが原因である。左の写真は、この講演を詳しく解説した彼の著書で、表紙はシュンペーターとのこと。

次のパラレルセッションはD1の市場のエージェントモデルのところを聴講。
最初はT.Heの「Contrarian, momentum and Market Stability」で、市場参加者がファンダメンタリスト、チャーティストで、チャーティストのうち、トレンドにのる人と、逆張りの人を考えたモデルを確率確率微分方程式(stochastic delay integro-differential eqn.)として解析。積分が入りるのは、過去の株価のトレンドを考量する必要があるからで、固有方程式にもっていき、安定性を解析する。すっきりとした内容で、Kirmanの話の次に興味深いものでした。デジタル投票モデルを有限記憶の場合にどう解析するかで、離散的のまま母関数をつかって地道にやる方法とは別に、確率積分微分方程式で考えるのがいいのかもしれません。

あとの二人は、なにをしゃべったかメモを見ても不明。Tramontanaは、エージェントモデルが為替市場でのStylized factsを出すのに、非線形の項は必要なく、二人のファンダメンタリスト、二人のチャーティストの参加条件をもうければいい、というのをモデルをカオスのマップにして示したみたいですが、条件そのものが強い非線形なのをどう考えているのか?

午後はG.Dosiが「Heterogeneous banks and Technical Change in an Evolutinary Model of Endogenous Growth and Fluctuations」で、為替や株価市場のミクロなStylized Factsを再現するモデルをもとに、マクロの予測を行う話。それをつかって政策効果を論じましょうというもので、例えは利息を上げた時の失業率、GDPのボラ(倒産確率に関連)を予測すると、15%から20%をこえると一気にカーブが上昇するとか、グラフを見せていました。ほんとにこんなのであたるのでしょうか?日本の消費税も20%までなら上げられそうです。(私がマクロをよく知らないので根本的に誤解している可能性も大ですが。)

そのあとは、パラレルセッションE2に池田先生の「Agent Modeling of Business Cycle and Goods Market」を聞きに行く。家富先生らが、産業や商品の市場のシンクロの様子(位相など)を市場データから明らかにしたので、それを蔵本モデルでモデル化する話。蛍も最初は明滅がシンクロしていなくても、しばらく放置すればシンクロするというのをモデル化するのと同じ。話はわかりやすいのですが、最後に、「この相転移を検証したい」と。シンクロするかどうかは、振動子の間の結合定数により、ある値をこえるとシンクロするという意味で相転移である。それはいい。けれど、マーケットの場合は、シンクロしていない状態にしておいて、条件を変えてシンクロするようには持っていけないので、検証が難しい。そこが蛍やカエルとかと異なるところ。シンクロして鳴いているカエルを石を投げてびっくりさせてシンクロを壊し、しばらく待つとまたシンクロするのを見るようにはなかなかいかない。池田先生は、リーマンショックでもなんでも、外的なショックの大きさを評価し、それがモデルでのシンクロを壊すレベルかどうかを調べるという話に持っていきたいということでしたが。

同じセッションで、A.Russoが、労働者と投資家の階級の移り変わり(金持ちになった労働者が投資家になるとか)をモデル化する「Towards a Stochastic Model with Heterogeneous Agents and Class Division」とか、労働市場において、失業率と求職の充足率に単調減少な関係が1年程度の間壊れることをモデル化する「Interpreting the Beveridge curve. An agent-based approach」がありました。

このあと、ホテルで休憩し、午後8時半からSocial Dinner。港に面したレストランで45ユーロのコース。まあ普通。日本人5人で固まってしまったので、全然国際色はありませんでしたが。

第3日は、さぼろうと思っていたのですが、T.Luxの「Modelling Animal Spirits and Network Effects in Macroeconomics and Financial Markets」だけ聞いてこようと思います。Kirmanのアリのモデルをベースに市場をモデル化した最初の人でもあるので。為替や株価、百家争鳴の状態は終了し、KirmanとLuxのモデルがベースで展開しているのでしょう。

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