2010年10月13日水曜日

人VSコンピュータ

人とコンピュータのどちらが賢いのか?チェスに関してはIBMのコンピュータがチェスの世界一を破り、コンピュータのほうが賢いことが示されました。かなり昔の話なので、当時は互角の闘いの末だったのですが、コンピュータの計算速度の向上を考えると、いまはチェスで人がコンピュータに勝つことはないでしょう。

一方、チェスではなく、将棋、囲碁の場合はというと、一度死んだコマが生き返ったり、場合の数が爆発したり、盤面のパターン認識が難しかったりで人間のほうが強い時代が続いていました。しかし、将棋の世界ではそれも終わり。今回は女流名人ですが、羽生さんであっても勝てたかどうかは怪しいものです。仮に勝てても、数年すればコンピュータの進化に負ける。(噂では、情報処理学会が羽生さんに対局を申し込むときに「50周年のいまなら羽生さんが勝てるかもしれないが、数年したら絶対に負けるから、いまがベスト」と口説いたとか。本当か嘘かは知りませんが。)、囲碁も、現時点では人間が強くても、過去の対戦パターンを覚え、先読みの計算速度を上げていけば、コンピュータが人間に勝つのは時間の問題です。

一方、競馬予想を計算機にやらせてみると、単純なロジットモデルに過去のレースのデータをいれただけでは全然勝てない。人の予想の精度がAccuracy Ratio(AR)で測って68%、ロジットモデルでは、20数個のファクターをいれても57%程度で、差は10%近い。これは、天気予報で言えば、明日の雨が降るのか、と明後日雨が降るのか、の一日の差程度で結構大きい。では、「競馬ファンが賢い」、「競馬ファンの予想はコンピュータよりもすごい」と言えるかというと、そうとも言いきれない。まだよくは分かりませんが、競馬ファンの予想精度のもとになる情報は、結局競馬新聞の情報であって、本命、対抗、穴馬といった印が馬券の投票によって集約されたもの。もちろん、競馬ファンがまったく予想精度の向上に寄与していないわけではなく、ARで言えば+2%程度は貢献しているのですが、68%のうちの66%が競馬新聞で+2%だけが競馬ファンの貢献とすると、「競馬ファンの予想精度はすごい」とは言えないです。(このあたりの数字とその解釈はまだ確信がないのですが。)

つまり競馬予想においては、競馬ファンの集団知がオッズを通して集約され、高精度の予想を行っているのではなく、競馬新聞の予想記事を書く人々の専門家の知が競馬ファンの投票を通してまとまっているだけ。その予想にコンピュータの単純なプログラムでは勝てない。すごいのは記者という専門家であって、競馬ファンではない。そして、問題は「競馬新聞の記者がどう予想するのか」を明かにし、「それをいかにプログラムに組み込むのか」ということになります。専門家の予想精度66%を再現する予想アルゴリズムを明かにし、ロジットモデルの57%を66%に向上させる。

将棋や囲碁ならコンピュータが人に勝つとニュースになりますが、競馬予想の場合、競馬ファンの形成するオッズに予想精度で勝っても、それが事実なら公表はしないし(どうやったかは)、ニュースにもならないでしょう。情報処理学会が総力をあげて競馬予想をして、それを販売すれば学会費を無料化とか、研究資金援助とか、いろいろ出来ると思うのですが。「将棋で勝っても日本人の将棋ファンしか興味を持たないぞ」と思うのは私だけなのでしょうか。

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