2010年9月23日木曜日

天才数学者はこう賭ける



ルーレットで勝つにはどうすればいいのか。ルーレットを傾けて、出る数字に法則性をみつければいい。シャノンがそんなことをまじめに研究していたとは知りませんでした。実際にカジノで使うのと同じルーレットを買って研究していたそうです。シャノンは情報科学をほぼ独力で完成させてしまった天才。そして、「情報」の価値をもっともよく知っていたのもシャノンなのでしょう。

この本は、競馬で勝つには、レースを仕組み、その情報を得ることだ、という話から始まります。しかし、いくらレースを仕組んでも、失敗や情報伝達の間違いの可能性がある。つまり、必ずこの馬が勝つとわかっても、全財産を賭ければ、その情報が誤りだった場合、すべてを失う。では、その間違う確率、また、勝つ場合に得るリターンが分かった場合に、どれぐらいお金をつぎ込むのがいいのか。これに答えたのがケリー。ケリー基準は、期待リターンから1引いたエッジをオッズで割った数に対する比率で賭けるのが、長期的な財産の成長率を最大にする方法であることを示す。この、不確定な状況下での最適な財産の分配は、シャノンのノイズがある通信路でエラーなく信号を送ることに対する方法と同じなのだ、というのがこの本の前半。(ただし、このあたりの詳しい解説はないので、自分でちゃんと勉強したくなりました。)

後半は、最初に書いた「ルーレットを傾ければカジノで勝てる」をいっしょにやったソープのブラックジャック必勝法、ヘッジファンドの成功など。結構面白い本です。ケリー基準は、経済学の分野では異端であり、そんなことでジャーナル・オブ・ファイナンスなんかの経済学の正統派の雑誌に投稿するとと一発リジェクトらしい。一方、情報科学者には評判がよく、それ(部分ケリー基準)を使って競馬ではベンターなんかが百万ドル以上儲けたとか。また、オプションのブラックショールズの公式もソープは知っていたらしく、発表せずにそれを使ってもうけていたそうです。

必勝法が分かっても、それを秘密にしておくのは非常に難しいのでしょうね。ベンターらの競馬のロジットモデルも、秘密にしておけば、毎年数億円を稼げる手法なのに、しばらくうまくいくと話してしまい、数百もの競馬ファンドがしのぎを削る世界になったそうです。その点、ソープはノーベル経済学賞の価値のあるブラック・ショールズの公式を発表もせず、せっせと金儲けに徹する。素晴らしい。(手前みそで、眉つばかも知れませんが。)

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