2011年1月29日土曜日

量子カオスの条件



半年ぶりに、数理物理・物性基礎論セミナーに出席。今回で7回目だそうですが、私は1回目の笹本氏のとき以来の2回目。テーマは、カオスの量子古典対応問題。講師は齊藤 圭司 氏。

カオスはもともと、系の時間発展が初期値に鋭敏に依存することを意味する言葉であり、有名なのがバタフライ効果で、ニューヨークでの蝶のハバタキがフロリダのハリケーンを巻き起こすというもので、あくまでニュートン方程式のような古典的な系に関する概念。では、古典的なマクロな系がカオス的なら、対応する量子系はどのような特徴をもつのか。それに対する答えが「エネルギー準位の統計がランダム行列のものと一致」ということ。

もっとも、答えといっても証明があるわけではなく、Gutzwiller(1971)からBerry(1985)までの研究で、エネルギー準位の2点関数のフーリエ変換の一次の項の一致のみが示されただけでした。図は、ランダム行列でのエネルギー準位の2点関数のフーリエ変換。τに関する一次の項の一致を示したのがBerry(1985)。それがここ10年の間にすべての次数での一致が示され、そのテクニックを使うと、ランダム行列で計算できない物理量が、半古典論にもとづく計算で可能となるとか。

セミナーでは、Berryまでの流れを前半の2時間半で解説し、細かな計算はともかく非常に分かりやすいものでした。一般的な古典系がカオスであるとして、古典軌道の概念を使いながら(つまり半古典論で)エネルギー準位の分布などの計算を行っていく。ひたすらガウス近似でおおらかに計算していくところは、昔風の理論物理そのもの。エネルギー準位の分布は古典軌道の和で書け、相関は経路の積の和になる。そのうち残るものが同じ経路の間だとして計算したのがBerryで、図の一次の項のτと2τを求めた。二次以降の項は、経路の重なりを考えて、組合せ論を展開する必要がある。

後半の1時間は、その高次の項の計算に用いられたSieber&Richer図と相関関数の計算(2001から2005)の解説。肝心の図の内容は理解できませんでしたが、雰囲気や、この手法がランダム行列の展開公式やアンダーソン局在の計算から思いつかれたものであるとか、いろいろ興味深いものでした。

自分で研究するわけではないですが、大変勉強になりました。ただ、内容が内容だけに学生さんむけというよりは、ほとんどプロ向けの勉強会になってしまっている。また、参加メンバーも、オーガナイザー周辺の人々だし。なかなか難しいのでしょうね。

0 件のコメント: